葬儀会社は嫌われ者

1984年の映画、故・伊丹十三の初監督作品『お葬式』は厳粛な儀式であったお葬式を取り上げた作品で、初めてのお葬式に右往左往する家族と周囲の人びとの姿をコミカルに描き、暗いタイトルにもかかわらず作中には笑いが溢れるギャップが大きな話題を呼び大ヒットを記録、その年の各映画賞を総なめにした作品ですが、そのタイトルだけでメジャーな映画配給会社はどこも配給を断ったそうです。

2008年の映画『おくりびと』では、納棺師となった主人公が、幼馴染からは「もっとましな仕事につけ」と言われ、妻からは「そんな汚らわしい仕事はやめて」と懇願された挙げ句「さわらないで!」と実家に帰られ、不良学生を更生させようとした参列者から「この人みたいな仕事をして一生償うのか?」と指をさされてしまいます。

2023年3月17日より、Amazon Prime Videoにて配信中のドラマ『エンジェルフライト』では、若手従業員が恋人から「今の仕事じゃ親に言えない」と言われたと悩みを吐き出すシーンがあります。

いつの時代も葬儀会社というのは嫌われ者のようです。

葬儀場の建設を予定すると当然のように周辺住民や自治体から反対運動が起こります。

確かに、近所を霊柩車が通る日々に快さは感じないでしょう。

もしかしたら持ち家の売却価格が下がるかもしれません。

しかし、反対運動の看板には、「文教地区に葬儀場建設断固反対」などという文言が書かれることがあります。

こういった看板を目にすると、悲しい気持ちになります。

近所に葬儀場ができるのと子どもの教育に何の関係があるのでしょうか?

反対運動をする理由に、差別や偏見があるような気がします。

葬儀会社が嫌われている理由に、日本に古来より受け継がれてきた「穢れ(けがれ)」という観念があります。

上にも書いた映画『おくりびと』の映画化のきっかけとなった青木新門の著書『納棺夫日記』には、叔父から「一家の恥」と罵られるなど、映画よりも酷い差別体験が綴られています。

古来より、死は穢れ(けがれ)とされ、共同体に異常をもたらす存在と信じられ避けられてきました。

映画『もののけ姫』のオープニングで、アシタカが里を離れることになり、また見送りも許されなかったのは、里を守るためにタタリ神を殺したことで穢れた存在になってしまったためです。

中世以前より、死体の処理を生業にする者は「穢多(えた)」と呼ばれる賤民の身分で差別の対象でした。

特に、火葬にあたる職業は奈良時代より「おんぼう」と呼ばれ、現在では差別用語として一般に使用されることはないですが、葬儀会社の従業員を指す隠語として意味されることもあるそうです。

死を穢れとして、近寄り難く、忌避すべきものであることは、日本人の意識に深く刷り込まれており、生理的嫌悪感は令和の世においても拭えるものではないように思います。

しかし、私自身の経験では、上記のような扱いを受けたこともないですし、見聞きしたこともありません。

現在、葬儀会社が嫌われている最たる理由は、高額で不透明な葬儀費用にあると私は思います。

葬儀会社を利用する時というのはその人にとって最も感情的な状況であり、価格設定やサービス内容に不満を感じてしまいがちです。

また、高額な葬儀費用や追加料金が不明瞭であるといった問題もあります。

他にも、一部の葬儀業者やモラルのない営業マンが営利追求を優先し、適切な配慮や敏感さを欠いた取引を行う場合もあります。

私自身、差別的なことを言われたことはないですが、「人の不幸で飯を食いやがって」は実際に言われたことがあります。

中学生の頃、不良グループにカツアゲされた日のことを思い出しました。

お金が無いと答えた私に、不良グループの一人が「飛んでみ!」と言ったのです。

(本当に言うんだ)

という気持ちです。

葬儀会社は営利企業です。

悪徳葬儀会社も優良な葬儀会社も無くなる兆しはありません。

嫌いな葬儀会社に余計な費用を払うことのないよう、事前に相談し信頼できる葬儀会社を見つけ、納得の行くお葬式をしましょう。

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